帰宅

 1ヶ月検診を機に、妻と子供達が自宅に帰ってきた。

 妻の実家から自宅への大移動。
 行くとき以上の大荷物に加えて、義父母が乗車。
 無理かとも思ったが、広い空間は柔軟性が高い。安全性を確保できる範囲で、なんとか全てを積み込むことができたのである。
 車オタクとしての満足度は低いものの、今の生活においてエリシオンは正解だったと改めて思う。

 引越しも落ち着いたところで、妻と義母と一緒に買い物に出かける。すっかり孫育てに馴染んでいる義父がいるので安心である。
 ささやかながらお礼のつもりで、夕飯は、義父が食べたがっていたホルモン焼肉に決めていた。近所に美味しい肉屋があるので、帰宅の際にはぜひ食べてもらおうと考えていたのである。

 儀父母を家まで送り、戻ってきたのは深夜であった。
 環境の変化にもかかわらず、激しくぐずることもなく、娘達は落ち着いて眠ってくれている。
 子供の横に、夫婦並んで眠った。

 おかえり。
 これから、家族4人の生活が始まるんだね。

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そして一人へ

 家と車の間を四往復して、やっと荷物をすべて積むことができた。
 大移動だ。

 初めてのチャイルドシート。
 野々心は火がついたように泣くが、こればかりは我慢してもらうしかない。
 菜々心は少し不満げに声をあげたが、すぐに涼しい顔に変わった。

 エンジンをかけ、妻の実家に向かって走りだす。

 二人とも静かになった。
 揺れが気持ちいいのか、シートの窮屈さに慣れたのか、すやすやと眠り出す。

 あれやこれやと動いているうちに、あっという間に夜になっていた。
 もう帰らなければならない。

 今夜からしばらくは、一人暮らしである。
 実家は職場と自宅の途中にある。だから、毎日会いに行ける。でもやっぱり寂しいのである。

 さらりと帰るつもりだったが、いざとなると涙があふれてきた。
 余計に悲しくなって、涙が頬を伝うほどになっていた。前は全く見えていなかったが、不思議とどこにもぶつかることなく車までたどり着いた。

 放心状態であったが、運転に意識を集中しようと努力しているうちに、なんとか無事自宅へたどり着いたのである。

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三人から四人へ

 野々心を抱いて病院に向かう。
 菜々心が無事退院するのである。

 ドレスに着替えた菜々心と一緒に、ナースステーションにごあいさつ。

 うまい具合に、双子を取り上げていただいた助産師さんが二人揃っておられたので、一緒に写真撮影。
 これもまたいい記念。

 双子が揃って自宅に帰ってきた。
 おそろいの服を着て、並んで寝る双子の姿を、ようやく見ることができたのである。

 かわいい。
 夫婦ではしゃぎながら、写真を撮った。

 今夜は、四人並んで眠る。

 泣き声の合唱に何度となく起こされはしたものの、至福の一夜を過ごしたのである。

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二人から三人へ

 妻と野々心は無事退院許可がでた。
 菜々心はやはり退院が延びる。

 残念だが仕方がない。
 菜々心。しばらく寂しいけれど、病院でしっかり育つんだよ。
 順調なら4日後の土曜日には退院できるのだから。

 ともかく家族三人での生活が始まったのである。

 妻の実家でしばらくお世話になる予定であったが、菜々心の退院までは自宅で過ごす。
 病院は自宅の目の前。
 ここからなら、毎日菜々心の様子を見に行くことができるのだから。

 その日は、野々心を挟んで、三人並んで眠った。
 今まで、妻と二人で歩んできた人生を三人で、そして四人で歩んで行くのである。

 なんとも不思議なものである。

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メモリアルベア

 野々心と菜々心が誕生した記念に、「メモリアルベア」 を注文していた。
 生まれたときの、身長と体重に併せて手作りされるのである。少々お高いが、とてもいい記念品になると思う。

 宅配便の営業所を訪ねて、止め置きで送ってもらったベアを受け取った。
 ドキドキしながら梱包をあける。

 とてもかわいい仕上がりに大満足。
 このベアにしてよかった。

 家に帰ったベア達は、双子達のタンスの上に仲良く座っている。

 将来、二人がそれぞれのベアを抱き、「こんなにも小さかった自分」に思いをはせてくれることとだろう。

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出生届

 出生関連手続きのため、役所に出向いた。

 出生届は事前に記入済みである。
 乳幼児医療、児童手当の申請も同時に行う。こちらは所得制限があるのだが、薄給の私には全く関係のない話である。

 役所というのは不親切なところ。前知識なしでは困るはずだ。
 手続きに必要なものなど、ネットから情報を入手しておく。

 久しぶりに行く役所。
 まずは、出生届の窓口に行く。

 とにかく無愛想である。
 ただ、こちらから聞かずとも、乳幼児医療と児童手当の案内書を手渡され、同時に手続きできる旨の説明はあった。少しはマシになりつつあるということか。
 とはいえ、やはり事前に何が申請できるのか、何が必要かなど、知っておかなければオロオロすることだろう。

 ともかく、無事手続きは完了した。
 野々心と菜々心は戸籍に登録され、わが家は正式に四人家族となったのである。

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母子同室

 双子の血液検査をするという。
 結果がよければ、点滴がはずされる。
 できれば日曜日ぐらいには・・・という、私の要望を聞いてもらえたのだろうか。

 果たして、二人の身体に刺さっていた針は抜かれたのである。

 野々心は、そのまま保育器から出ることができた。日中は母子同室となる。
 菜々心は、体温維持のため、もうしばらく保育器生活を続ける。

 翌日、菜々心も短時間限定ながら母子同室を許された。

 まもなく消灯時間。
 病室のベットの上に双子がいた。

 誕生から四日目にして、ようやく二人が並ぶ姿を見ることができたのである。

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名前を書く

 生まれるずっと前から名前は決まっていた。
 性別が分かった時から、お腹の中の二人には名前で呼びかけていた。

 手術後、どちらが先かではなく、お腹のどちら側にいた子かを教えてもらった。
 左下の子は「野々心」右上の子が「菜々心」、「ののみ」「ななみ」と読む。

 最初、赤ちゃん用名札には、妻の名前と番号が書かれていた。
 1子ちゃん、2子ちゃんはかわいそうだから、決まっているなら書いてあげてと、看護士さんに薦めていただき、早速名前を書いた。

 改めて二人に呼びかける。
 ちゃんと自分の名前に反応する。お腹の中でしっかりと聞いていたんだよね。

 名札に名前が記入されたことで、病院スタッフからも名前を呼んでもらえるようになった。娘達も喜んでいるようであった。

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誕生

 電話のベルで目を覚ました。
 午前2時過ぎ。

 破水したという。こんな事態は想定していなかった。
 とにかく病院へ向かう。

 破水して子宮収縮が始まっている。点滴で感染防止と収縮抑制。子供達は元気なため、翌朝の予定手術までもたせるとのこと。
 二人でドキドキしながら長い夜をすごした。

 ともかく、無事、手術予定時間を迎えることができた。

 希望はしたものの立ち会いは認められなかったため、手術室の入口で妻を見送ることとなった。
 手術室に消えて行く妻を見ていると、鼓動が激しさを増して行くのがわかった。

 助産師さんからの指示通り、産科病棟の待ち合い室で待機するが落ち着かない。双子がやってくるはずのエレベーターの前を、ウロウロと歩き回る。

 やがて、開いた扉の向こうに、二つの保育器が並んでいるのが見えた。

 「おめでとうございます」「とても元気ですよ」「二人ともお譲ちゃんですよ」「出てきてすぐに元気よく泣いていましたよ」助産師さん達の声が飛び交った。

 けして大きくはないが、心配したほど小さくもない。肌つやがよく、元気よく動いている。
 無事誕生したのだ。
 視界が滲むのがわかった。

 「ありがとうございます」それが精一杯の科白だった。声はきっと震えていたのではないかと思う。

 病室で、戻ってきた妻に付き添う。
 痛みに耐える妻。手を握って励ますことしかできない自分が歯痒い。
 痛み止めが効き目をあらわし、妻は眠りに落ちていった。

 その間、状態のよい双子たちと触れ合うことができた。
 保育器の中ではあるが、ボディーマッサージをし、両手で抱いた。
 新しい生命のぬくもりを、全身で感じることができた。

 消灯となる21時まで妻に付き添った。
 殆ど寝ていないが、気が張っているためか元気である。

 それにしても長い一日だった。
 2006年6月22日。
 人生でもっとも長くそして幸福な一日であった。

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誕生前夜

 午前中、状態は落ち着いていた。
 予定の29日が目標だが少し早まる可能性もある。妻は、病棟担当医からそんな風に聞いたようである。

 午後、私が付き添っているところへ主治医がやってきた。明日にでも手術の可能性が高いという。
 一晩で1.5kg体重が増加しており、これは腎臓が水分を処理しきれていないことを意味する。子供のためにも、すぐにでも出してあげたほうがよいとのことであった。

 Dr.の判断に任せるので、今日判断して確定して欲しいと依頼した。
 主治医が小児科担当医と相談した結果、明日22日朝から手術と決定した。

 決まったとなれば、あれよあれよと準備が行われる。
 夫婦は実感の薄いまま、明日双子と対面することになったのである。

 今夜はそのままでは眠れそうになかった。
 しかし、明日は朝から忙しくなる。しっかり眠っておかなければならない。
 自宅周辺を走ることにした。

 走り出すと、足は自然とある場所へ向かっていた。
 神社である。お宮参りはここが良かろうと考えている。
 暗くなった境内で手を合わせ、一心に願った。普段は信心のかけらもない。こんな奴でも神は願いを聞いてくれるのだろうか。

 アップダウンの激しい自宅周辺を、約1時間程走った。
 走ると心が落ち着く。あるいは珍しく神に手を合わせたからなのかもしれない。

 今夜はぐっすりと眠れそうである。

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入院

 28日に入院、29日に手術(帝王切開)の予定となり、本日20日、夫婦揃って入院説明を受けることとなった。
 説明の前に、妻は検診を受ける。前回の検診から18日が経過している。双胎とは思えぬ検診間隔だ。
 状態がよければ、あと一週間と少しで出産を迎える。いよいよである。

 主治医から、今までの経過や手術に関する説明がなされた。概ね想像通りの内容である。

 一方で「むくみ」や「血圧」のことなど、今の状態を強調される。何かと思っていたら、妊娠中毒症の恐れがあるとのこと。

 そして『このまま緊急入院してもらいます』と告げられた。

 この事態は予想外であった。
 いや、あまりに妻の状態がいいため「緊急入院させられたりして・・・」なんて冗談で話していたことはあった。まさか本当になるとは・・・
 しばらく動けなくなるだろうからと、今日は美味しいものでも食べに行く予定だったのに・・・

 危険な状態というわけではないのだが、翌日になっても血圧が下がらないようであれば、緊急手術の可能性もあるという。落ち着けば、予定通り37週を待っての手術となる。

 病棟へ移ったころには、面会終了まで2時間を切っていた。
 心の準備はできていなかったが、大まかな入院準備はできている。自宅は病院のすぐ近くである。すぐに荷物を届け、入院手続きも終えた。

 さらに身の回りの小物などを届けたときには、面会時間を越えていた。
 明日の面会時間に来ることを伝えて、病室を後にした。

 一人になった。
 今から食事の用意をする気にもなれない。久しぶりにラーメンでも食べに行くか。

 一人で食べるラーメンは、なんとも寂しく悲しい味がした。
 これからしばらく一人暮らしである。やっていけるだろうか。
 結婚する前には、長年一人暮らしをしていた。そのときに感じたことはなかったが、一人で過ごす時間は、なんとも空虚なのである。

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子宝を運んできてくれたものたち

 子宝草、さるぼぼ、一刀彫の福良すずめ・・・

 我が家に、子宝を運んでくれたものたち。
 どれも二つづつある。だからかな?

 妻から聞くまで、さるぼぼというものを知らなかった。
 早速ネットで調べて、注文してみた。大きいのを一つ。小いさいのを二つ。
 小ぼぼを二つ頼めば、合計金額が規定以上となって送料が無料になる。安易な理由。鞄にでもぶら下げればかわいいだろう。

 届いた小ぼぼは、わりと大きかった。
 大ぼぼは、かなり大きかった。

 今、大ぼぼは玄関に、小ぼぼはベットにいる。

 さるぼぼがきっかけで、飛騨高山を訪れてみようということになった。

 途中、道の駅で子宝草を発見。
 一泊とはいえ、そのまま連れて行くのもどうかということで、帰りに購入することにした。

 高山の朝市にて、手作りの小さなぼぼを購入。携帯ストラップサイズでかわいい。
 妻と一つづづ。じょんぼぼ、のんぼぼと名づける。

 お土産屋さんで、福良すずめを購入。
 妻と一つづつ。ピーちゃん、パーちゃんと名づける。

 飛騨コンロを買おうと立ち寄った際に、是非にと薦められた。
 ご利益があるらしい。半信半疑で買って帰った人たちから、お礼の連絡が毎日のように届くとのこと。
 二体で千円。見た目にかわいいし、ご利益はなくても構わない。
 『ごめんね、余分なお金を使わせて・・・』としきりに申し訳なさそうにするおばちゃんが印象的だった。

 話は本当だった。おばちゃんありがとう。
 また高山に行かないとね。おばちゃんにお礼言いに行かないとね。と夫婦で話している。

 帰り道。子宝草を買おうと道の駅へ。
 残念なことに、販売所は既に閉まっていた。

 案内所のおねえさんに頼み込んで、販売所を開けてもらった。二鉢購入。
 『代金は責任を持って、明日渡しておきます』とのこと。おねえさんありがとう。

 駄目と諦めなくてよかったね。頼んでみるもんだよ。きっといいことがあるね。

 今、子宝草は沢山の赤ちゃんを産み落とし、ジャングルのごとく育っている。

 そして・・・やっぱりいいことがあった。

 みんな、ありがとね。
 我が家に双子の赤ちゃんがやってきたよ。

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涙があふれた日

 病院の待合室。
 妻の検診が終わるのを待っている。
 午前中、半日の休暇をもらった。結果を聞くだけであれば、仕事をしながら連絡を待っていても同じ。理屈はそうかもしれないが、感情はそれほど単純なものではない。

 二週間前、検診で胎嚢が確認された。
 このときは、メールで連絡をもらった。

   「確認できたんだけど・・・」

けど?

   「二つある・・・」

双子?

 双子かぁ。自然と顔がにやけてくるのが分かる。
 二人いると愛情が半分になる、なんて話を聞いたことがあるが、それは違う。嬉しさ三倍。愛情三倍。幸せいっぱい。

 あれから二週間。どきどきの二週間。
 妊娠初期は不安定だとか、双子の一人が吸収されるだとか、色々とよくない話を耳にした。

 そんなはずはない。きっと大丈夫。毎日、妻のお腹に口をあてて話しかけた。

   「元気に育つんだよ。」

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 検診を終えた妻の手に、小さな紙切れがあった。
 エコーの写真。

 嚢が二つ。中に小さな小さな命が写っていた。

 目の前が滲んだ。涙で何も見えないよ。

 元気に育っていたんだね。これからも、元気に育つんだよ。

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